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吸入ステロイドによる声枯れについて

当院では、気管支喘息やCOPDの患者さんが多く来院されています。
その治療薬として、気管支の炎症を抑える吸入ステロイドや、収縮した気管支を拡げるための気管支拡張薬(β2刺激薬や抗コリン薬)が主に用いられます。これらの中で特に使用頻度が高いものが吸入ステロイドです。
吸入ステロイドは、内服薬と違い全身性の副作用が非常に少ないことが分かっています。しかし、声枯れ(嗄声)や口腔カンジダ症など、喉に関する副作用が問題になることがあります。
今回は、なぜこのような副作用が生じるのか、どのような対策があるのか、についてお話していきます。

<なぜ声枯れが起こるのか?>
① 声帯周囲の筋肉の運動低下
ステロイドには蛋白の分解を促進し、合成を抑制する作用があります。このため、長期間ステロイド粒子が喉に付着したままの状態が続くと、喉の筋力が弱まり、声帯を動かす力が弱くなります。この結果、声枯れが生じます。これは一時的な障害であり、ステロイド粒子が喉に付着しなくなると改善します。

② カンジダ症による炎症
カンジダとはカビの一種です。口の中や喉の粘膜にステロイドが付着したままの状態が続くと、局所の免疫力が低下してカビが増殖しやすい環境となります。

③ 添加物による刺激
ステロイドそのものによる影響ではなく、吸入薬に含まれる添加物による刺激が原因の場合があります。


<声枯れが生じてしまったら?>
① 吸入前後にうがいをする
まず、吸入をする前にうがいをしましょう。口の中の粘膜を湿らせておくことによって、薬の粒子が口の中に付着することを防ぐことができます。また、吸入後にもうがいを行い、口の中に残っている薬を取り除きましょう。

② 食前に吸入薬を使用する
口の中に残った薬が食べ物によってこそぎ落とされ、胃に流れて分解されます。

③ 吸入速度に気を付ける
吸入薬は大きく分けてドライパウダー製剤とエアゾール製剤(いわゆるスプレータイプの吸入薬)の2つに分けられ、それぞれ有効な吸い方が異なります。

⚫︎ドライパウダー製剤の場合
強く深く吸い込むことが大切です。吸入速度が不十分だと、ステロイドの粒子が喉に付着しやすくなるため、声枯れの発生頻度が上昇します。

どんな治療をするの?

 

 

 

 

 

⚫︎エアゾール製剤の場合
薬剤の噴霧と同時に、ゆっくりと深く吸い込むことが大切です。うまく吸入できない場合はスペーサー(*)の使用も有効です

*スペーサーとは?
エアゾール製剤を使用する場合、薬の噴霧のタイミングに合わせ、口から薬を吸い込む必要があります。しかし、ご高齢者やお子様ではタイミングが合わせられないケースがよくあります。
このような場合にはスペーサーを吸入薬に接続して使用します。まずスペーサーの中に薬剤を噴霧し、いったん薬の粒子をためます。その後スペーサーをくわえて薬を吸入します。こうすることで好きなタイミングで薬を吸入することができ、吸入器を押した瞬間に慌てて吸いこむ必要がありません。

・エアロチャンバープラス(製造販売業者:アムコ)

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・PARIボアテックス(製造販売業者:村中医療器)

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④ 吸入薬のタイプを変更する
ドライパウダーは粒子径が大きいため、エアゾール製剤に比べ声枯れが生じる頻度が高いと言われています。ドライパウダーを使用している方の場合、エアゾールタイプへ変更することで症状が軽減されることがあります。
また、吸入薬に含まれるステロイド量が多いほど声枯れの頻度が上昇します。喘息やCOPDの症状が落ち着いている場合、含有ステロイド量が少ないものに変更することも有効です。


<最後に・・>
吸入薬を使用中に声枯れなどの副作用が出た場合、自己判断で中止する前にぜひ担当医までご相談ください。吸入薬に関係した副作用は、経口薬に比べて軽微であることが多く、対策もあります。
治療中断によって喘息を悪化させてしまう方が、日常生活の質の低下、重症発作による入院・死亡リスクの上昇、が危惧されます。
吸入薬を使用中に何か心配なことがある場合は、お気軽にご相談ください。